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北信州志賀高原の麓にある玉村本店。その歴史は古く創業は文化二年(1805年)にさかのぼる。玉村本店はもともと志賀高原の麓の造り酒屋で、「縁喜」という寒冷な気候と良質な水を活かした、キレのある旨口の酒を醸している。
この歴史ある蔵が「自分たちが飲みたいビール」をコンセプトに、厳選された麦芽、ホップ、自家栽培米の美山錦などを原料に、手造りビールを造り始めたのが2004年のこと。
当時地ビールを巡る状況は、1994年4月の酒税法改正により、ビールの最低製造数量基準が下がることにより、全国各地で地ビールブームを巻き起こるなか、ブームに乗った安直な造りのビール、またはビールの低価格化などで必ずしも追い風という状況ではなかった。
こういったなか、ビールの仕込みで出る麦芽粕で作る自家製堆肥を用い、清酒と一部のビールの原料である酒米、「美山錦」を自家栽培。4年前からは、ホップも栽培し、更に大麦の試験栽培にも着手。独自の手法でビールを造り始める
志賀高原の湧水を生かし、「農」との深い関わりによって生まれるこの地ならではの味わいは、「これでいい」ではなく「これがいい!」と言う多くのファンを獲得している。いまでは全国にファンのいるクラフトビールとなっている。
この玉村本店のビールに惚れ込んで、ビール製造の道に進んだ男性が松澤基裕(まつざわもとひろ)さん。洋風居酒屋のマスターとして、玉村本店のビールと付き合ううちにその味に惚れ込み、1年半前、採用の予定もなかった玉村本店さんに無理やり頼み込み、志賀高原ビール造りのメンバーになる。
今回はこの松澤さんに、ビール造りの楽しさや難しさ、やりがいなどを聞いた。
濾過後の麦の搾り滓は肥料としてホップや米の栽培に使われている
ビールの味を決めるのは麦芽・酵母・ホップ・水がある。各工程で麦芽をどのくらいローストするか、麦芽を煮る温度、ホップの量、どんな水を使うか、など緻密な計算やこれまでの経験を元に、志賀高原ビールは造られていく。
美味しいビールを造るために、どの工程も大切で気が抜けない工程である。
しかしこれらの工程を支える大切な作業があるという。
「飲んでいたときには想像がつかなかったことですが、ビール造りに携わり、一番驚いたことは、醸造の準備と後片付けにとてつもない労力がかけられていることを知りました。」と松澤さんは、語る。
ビール造りでは、タンクや配管の洗浄・消毒を丁寧に行うことが大切である。ビールの場合アルコール度が低く、デリケートなビール酵母は、少しでも雑菌がはいると、美味しいビールができないため、醸造の準備と後片付けつまり機器の煮沸や使用後のクリーニングに多くの時間が割かれる。
「地味な仕事を丁寧にこなす努力があって初めて美味しいビールが出来る。」と語ってくれた。
上から濾過後の麦汁、自社栽培のホップ、できたてのビール、志賀高原ビール製品群
「小さい酒蔵ですからなんでもやります」という松澤さん。その言葉の通り、自社の畑で育てるホップの栽培から収穫、ビールの醸造、瓶詰めからラベル貼り、配達、販売までなんでもこなしている。
これらの仕事の中で特にはげみになるのは、配達や販売の時だという、仕入れ先のお客さんから、ビールに対してお褒めの言葉をいただいたり、逆に通常の大手のビールを飲み慣れているお客さんからは、飲みにくさを指摘されたりし、ダイレクトに意見をもらえることが仕事へのやりがいにつながっているという。
ただ「どうぞ!」ってビールを渡すのではなく、「こんな香りがして苦味が強いですよ」というような導入の言葉をかけてあげることで、お客様の受け止め方が全く違くなり、そこで「おいしい!」っていってもらえれば、理解もしてくれたし、本当に美味しいと思ってくれている。
志賀高原ビールの背景や飲んだ時の味わい方やおいしさをわかりやすく言葉で説明し、提案することが大切であると話してくれた。
将来の夢は常に美味しいと感じられるビールを造り続けられること
ビール造りは、粘り強さが求められる。夏場のホップ収穫、仕込みの原材料や製品の運搬、麦汁の濾過後タンク内からの麦の掻き出し、洗浄、瓶詰、ラベル貼りなど、重労働の作業もあり、また、一つ一つ単純な作業の繰り返しの部分も多い。
「自分がまかされている仕事に対して、どれだけ真剣に出来るかが大切です。」と話す松澤さん。毎日同じ作業が続くときもあるが、それらの1回1回の作業にどのくらいしっかり、きっちり正確にできるか、気を抜かないでやれるかということを大切に考えているようだ。「それぞれの作業は単純でも、正確に反復することがビールの品質向上につながると考えると、気は抜けない」と語る。常に美味しいと感じられるビールを造り続けられることが将来の夢であるとも言ってくれた。
醸造責任者であり玉村本店の八代目でもある佐藤専務は日本におけるクラフトビールの普及を目指している。
「地ビールという言葉はあまり好きじゃない。」こんなふうに松澤さんの上司にあたる醸造責任者であり玉村本店の八代目でもある佐藤専務も語っているが、志賀高原ビールが目指すのは、大手のビールにはない、面白い、個性あるクラフトビールだ。こういった観点で見ると、志賀高原ビールは、大手のビール会社が目指すビールとはそもそも方向性が違う。
例えば、アメリカのビールというと、バドワイザーやハイネケンなどが思い起こされるが、全体の6%程は、個性あるクラフトビールが消費されている。日本でクラフトビールが消費されている割合はわずか0.5%。日本の食の多様性を考えると、もっとシェアが広がっていく可能性があるし、広げていく努力をしていかなければならないという。
「ビールは趣向のもの。特にクラフトビールという日常的ではないビールがあるということをまずは知っていただきたいと思います。“地ビール”=“地域のおみやげ品で味はそこそこ”みたいなイメージでひとくくりでまとめられてしまうことには抵抗感を感じてしまいます。」と語る松澤さん。新しいジャンルとして、クラフトビールが日本人に浸透していけばよいと応える目は真剣そのものだ。
志賀高原ビールの醸造メンバーとして欠かせないメンバーのひとりとして働いている
八代目からも、安心して仕事を任せられる人材。舌の確かさと、真面目さ、正確さでチームに貢献してくれていると評価される松澤さん。
現在は志賀高原ビールの醸造メンバーとして欠かせない人材になっていうようだが、この仕事にたどり着くまでいろいろな社会経験をしてきたようだ。
「若い頃は長くやるというより、今これがやりたいという気持ちがつよかったため、いろいろ転職して自分の好きなことばかりやってきた。」こういう松澤さんのキャリアは面白い。
スポーツのインストラクターを経て、スノーボードに関わる仕事、企画会社でのサラリーマン、飲食店のマスターなどの経験を経て、現在のビール造りの仕事に携わる。
今現在感じていることは、積み上げていくことの楽しさだ。「技術職は最初退屈に思うこともあるかもしれませんが、一つ一つこつこつやることが大切な事だということに気づいた今、ただの作業ではなく、ものづくりという視点でこの仕事ができる喜びを今は感じている」と笑顔で話してくれた。
| 社名 | 株式会社玉村本店 |
|---|---|
| 代表 | 代表取締役 佐藤 喜惣治(七代) |
| 設立 | 1805(文化2)年 |
| 事業内容 | 清酒製造、酒類販売・卸 |
| 従業員 | 14名(平成22年現在) |
| 資本金 | 1000万円 |
| 住所 | 〒381-0401 長野県下高井郡山ノ内町平穏1163 |
| TEL | 0269-33-2155 |
| FAX | 0269-33-3136 |
| URL | 自社サイト:http://www.tamamura-honten.co.jp/ 専務によるブログ:http://slowbrewing.blog104.fc2.com/ |
| メールアドレス | engi@tamamura-honten.co.jp |