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オーベルジュ エスポワール
野村秀也(入社12年)
蓼科中央高原の、緑豊かな別荘地にあるオーベルジュ(※1)「エスポワール」。ここでは、四季の移り変わりを間近に感じながら、生産者と料理人のタッグが生み出した旬の料理と、常時2000本を超えてストックされている、様々なワインを味わうことができる。また、イノシシ、鹿、山鳩、野うさぎなどの野生動物を用いた「ジビエ料理」が、本格的に体験できる店としても知られている。
「エスポワール」では、環境保護のために駆除されるだけだった野生動物の肉を、その尊い命への感謝の気持ちを込めて調理し、料理として提供しているのだ。「料理やワインの向こう側にある世界を思いやりながら、お客様のために日々勉強を絶やさない」―この店で働くソムリエの野村秀也さんにお話を伺った。
※1:オーベルジュ…宿泊施設を備えたレストラン。
「ワインはわが子です」と野村さん。その手には1916年生まれのワインが。
「ソムリエになるなんて、まったく考えていなかったんですよ」と語る野村さん。以前テレビで見た料理対決番組が忘れられず、料理人を志した。調理師の専門学校に入学し、そこで洋食の面白さに開眼。「いつかは自分の店を持ちたい」という思いを胸に、料理と経営を学べると紹介された「エスポワール」に入社した。
「厨房の2年間はほんとうに辛かったです」と野村さんは笑顔で振り返る。自分の料理でお金が頂けるのか?お客様は満足してくれているだろうか?…自分を信じていいのか。自信が持てず、葛藤を抱えながら日々を過ごしていた。そんな時シェフから「ホールに行ってお客様を見てきなさい」という言葉を伝えられる。お客様を見ることで自分の料理を見つめなさい、といった意味だったのかもしれないが、野村さんは「厨房の仕事がダメだから外された」と落ち込んだ。一通りのことを覚えたら、絶対に厨房に戻ろうと思っていたところ、「続けているうちにサービスが面白くなって」きた。歯を食いしばって仕事を続けているうちに「自分の中で何か弾ける音がした」そうだ。
季節により温度変化の激しい蓼科。ワインセラーの温度管理は欠かせない。冬期は一日三回、砂利に水をまいて湿度を保つこと。
サービス業務の第一印象は「一日の八割が掃除、毎日掃除」だった。最初は「やらされている」と思っていたが、徐々に「なぜ掃除するのか」を考え始めた。掃除はお客様を迎え、料理を楽しんでもらうために、最も基本的であり、最も忘れてはならない大切な仕事。単純だと感じている仕事にも、実は大切な意味が潜んでいる。―そう思うと、掃除はこなすべきノルマではなく、積極的に行う重要な仕事だと捉えられるようになった。こうした姿勢でサービス業務に取り組むうちに、野村さんは「自分の仕事に幅が生まれていく」のに気づき始めたという。懸命に仕事に打ち込む中で、奥深いワインの世界に魅せられるのに、さほど時間はかからなかった。「一つのことに夢中になってしまうタイプ」だという野村さんは、何とたった3ヶ月の勉強期間で、ソムリエ資格を獲得。数え切れない銘柄のワインとの付き合いが始まった。
ソムリエになってから、ずっと付け続けているというメモを見せていただいた。「ブラックオリーブ、木の葉、腐葉土の香」カベルネの未成熟なもの。熟成香に似ているが…驚くほどまろやかだ」「温度は15℃くらいがよさそう」「A5ランクよりは脂の少なめのお肉がよさそう」などなど…そこにはワインの味、香り、最もよく合う素材と調理法について、小さな文字でビッシリと言葉が書きこまれており、野村さんの努力が凝縮されているようだ。「毎日が勉強です。厨房時代の経験もしっかり生きています」。
毎日ワインの品質をチェックしている。味の感じ方で自分の体調もわかるという。2010年にはJSA認定シニアソムリエの資格を獲得された。
料理、接客、電話対応、ベッドメイキングなど、野村さんの「エスポワール」での業務は多岐に渡っている。多忙を極める中で「全てにおいてプロにならなければいけないのか」と思い悩み、完全燃焼できない時期もあった。苦しい胸中を思い切ってシェフに打ち明けたところ、「追求すべきことは、お客様に楽しんで頂くことなんだよ」との言葉をもらった。
「ワインや料理の知識はもちろん大切ですが、一番はお客様に楽しんで頂くことを追求すればいいんだ。それに気がついたときに楽になりました」と野村さんは振り返る。「自分が楽しんでやっていれば、お客様にはちゃんと伝わります。そして追求する心も生まれてきます。苦しんで得た知識はお客様に伝わらないし、自分を苦しくするんですよ」。その気づきがあってから、自分が面白いと思うこと、やってみたいことを積極的に提案できるようになった。不思議とワイン選びにも幅が出はじめたのだという。お客様に楽しんでいただくこと、そして自分も楽しむこと。この幸せな関係こそ、笑顔を絶やさない野村さんが、今一番大切にしていることだ。
同期入社の松浦さんと。「野村さんはいい兄貴です」と松浦さん。何度も二人でワインと料理の研究会を開いたそうだ。
「お客様の生活に寄り添った言葉で、ワインを紹介したい」と語る野村さんは、「ソムリエとはこういうものだ」という固定観念をなくし、お客様一人一人と向き合うことを心がけている。例えばガーデニングが趣味だというお客様には、土の匂いや季節の花の香りを添えて、ワインの風味を伝える。ストーブ用の薪割りをしている時にも、「これはオーク樽の香り」と、ワインの香りがよぎってくる。様々な人々の間に立ち、自分流の仕事を磨いていくことこそ、野村さんの生き甲斐と言っていいかもしれない。
お客様からソムリエの技術を教わることもあるそうだ。年代物のワインは、ボトルの内部に、コルクを吸い込む力が発生している。また、コルクが劣化して脆くなっている可能性もあり、抜栓が難しい。その対処法は、スクリューを深く刺し、コルクを貫通させること。すると、少しづつ空気が入ってボトル内の圧力下がり、容易に抜栓できるとい
うわけだ。「こう言った知識は本にも書いてないんですよ。お客様が一番ワインの楽しみ方を知ってらっしゃいます」。
休日にはシェフと共に、ワインや食材の生産者に会いに行く。提供する料理の背後に広がる世界を体感し、お客様に伝え、共有したいという想いからだ。一筋のワインがグラスに注がれるその瞬間に、多くの人々の思いと情熱が共に注がれていく。…いつもそのことを胸に刻みながら、野村さんは自身の夢に向かって邁進している。「全ては、お客様との楽しい時間のため」。力みなく、軽やかで誠実な言葉で、野村さんは語ってくれた。
レストランにおけるワイン専門の給仕人。お客様の要望に応え、ワイン選びの提案、手助けをする。品質と在庫の管理だけでなく、仕事内容はレストランのホール業務全般に渡っている。ワインに精通することはもちろん、ていねいな言葉づかいとボキャブラリー、接客時の立ち振る舞いや、料理に対する広い知識も必要だ。
「天候やホール内の様子、お客様の表情など…観察力と総合的な知識でワインを選んでいます」と野村さんは語る。より良いひとときへお客様を招待する、そのためのワインと料理のガイド役がソムリエの仕事だ。
| 社名 | オーベルジュ エスポワール |
|---|---|
| 代表者 | 藤木 徳彦 |
| 設立 | 1998年 |
| 事業内容 | フレンチレストラン、宿泊施設 |
| 従業員 | 13名 |
| 資本金 | 1,000万円 |
| 住所 | 〒391-0301 長野県茅野市北山蓼科中央高原 |
| TEL | 0266-67-4250 |
| URL | http://resort.wide- suwa.com/espoir/ |
| メールアドレス | espoir@po23.lcv.ne.jp |