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スペシャル


セイコーエプソンものづくり塾と新人研修。

セイコーエプソンものづくり塾の秘密。

「WAZACAN」のサイト制作を通してセイコーエプソンものづくり塾の研修生の方々には何度も取材をさせていただいた。
彼ら彼女らに共通して感じたのは「自主精神の高さ」だった。
お会いする皆さんが「仕事だからやっている」「上司に言われたからやっている」という空気を少しも持っていないのだ。
もちろん人間であるから、気が乗らない日や試行錯誤する日々があることは当然なのだが、「自分が掲げた課題に真摯に取り組むんだ」というシンプルなモチベーションを取材する皆さんから感じた。

二十代前半の若者たちである。
年齢で人を物語ることの不用意さは十分承知しているつもりだけれど、はっきりいって記者であるぼくはそんな若者ではなかった。正確にいえば、なりたいけど、どうすればそんな人になれるのかわからなかった。

セイコーエプソンものづくり塾自体を取材させていただければ、その秘密がわかるのではないか―。
そんな気持ちで取材を申し込んだところ、新入社員研修と合わせて取材ができることになった。ものづくりDNAの純度を高めようという「ものづくり塾」の取り組みと、スタートラインに立つ新入社員に「セイコーエプソンのものづくりとは何か?」という基礎理念を伝達する研修。この両極の取材で見えてくるものは何だろう。そんなわくわくした気持ちで取材に向かった。



ものづくり塾の始まり。

大きな目を輝かせて熱く語られるものづくり塾の宮澤部長/ものづくり塾では精密機器組立て、メカトロニクス、抜き型の実践的な訓練が行われている

セイコーエプソンものづくり塾は2002年11月に設立された。
1942年の創業以来、腕時計製造における超精密加工技術をものづくりの原点とし、事業の多角化を進めてたセイコーエプソン。
その成り立ちと「ものづくり塾」の理念を宮澤部長にお聞きした。

記者:1970年代に日本全体の流れであった製造現場の海外移転がどのように「ものづくり塾」の契機となったのでしょう?

宮澤:生産規模が大きく拡大する1970年代から日本の製造現場は日本国内から海外へ移転してしまい、国内にものづくりをしている現場が少なくなってしまいました。そのため、今まで培ってきた技術や匠の技能の継承が途絶えてしまうのではないかという危機感から、“見えざる資産(技術・技能)の蓄積と継承”を目的に実践的な訓練を可能にする「ものづくり塾」を設立しました。

記者:ものづくり塾では名工と呼ばれる卓越した技能者が若者に技能を継承していたとお聞きしたことがあります。

宮澤:2002年の設立当初は、団塊の世代の大量退職が問題視されていました。社内でも卓越した技能、技術の持ち主である多くの方々が退職なさるということで、若い技能者に技能を継承し、ものづくりのDNAを残していかなければ途絶えてしまうということを危惧しました。


記者:年配の技能者の方々は製造現場で活躍され、技能を磨かれてきた方々なのですね。

宮澤:まさしくその通りです。セイコーエプソンは時計で培った”超マイクロメカトロニクス”の技術を原点に、インクジェットプリンター、レーザープリンター、プロジェクターなど時代のニーズに先駆けた製品づくりを目指してきました。日本のものづくりの大きな特長である「工夫改善しよう」とする律儀な性格を武器に、当社ではお客様に価値ある製品を創造してまいりました。その製造に携った方々は、優秀な技能の持ち主であるばかりではなく、ゼロから築き上げた気力や、やり遂げた自信と経験を得てきた人々なんです。

記者:なるほど。そこには「ものづくり」において重要なこと全てがある。

宮澤:はい。ですから、ものづくり塾では「ものづくりは人づくり」という理念をもって、エプソンが誇る匠たちがものづくりの技能だけでなく精神も、実践的な訓練を通じて若手に伝承しています。


ものづくりとは何か?を学ぶ
新入社員研修

自社製品であるプリンターや時計の分解・組立を実習する。技能五輪国際大会時計部門金メダリストである竹岡さんと小松さんが講習されていた/80人ほどのチームに分けられた新入社員たちが「どうすれば金属の平面を出せるのか」と一日かけて取り組む

取材させていただいた4月はセイコーエプソンの新入社員研修月間でもあった。関連会社を含め、約300名におよぶ新入社員が本社に集結し、一ヶ月間の研修を受けるのだ。技能者や営業、経理、総務、研究職といった全部門の新入社員が同じ研修を受ける。
講習や座学はもちろんのこと、やはり特出しているのが実践的な「ものづくり」の研修だろう。
セイコーエプソンの製品を肌で感じるために、プリンターや時計の分解・組立を全員が体験する。また、「ものづくり」を身体で知るために金属棒の切り出しを朝から夕方までひたすら実践し、別日には金属塊のヤスリがけを朝から夕方まで行う。
専用のヤスリを使って四苦八苦しながら金属塊を磨いていく場面では、さまざまな年代の新入社員がいた。高校を卒業したばかりの18歳や、大学院を出た20代の人。おそらく金属ヤスリを手にすること自体が初めての人が多い。彼らは初めての作業に戸惑いながら、朝からの徹底したヤスリがけに疲労しながら、与えられた課題「金属を平面に磨くこと」に黙々と正面から取り組んでいた。

何人かに感想を求めると様々な答えが返ってきた。
「金属のヤスリがけは初めてです。思ったようにできなくてもどかしいです」
「配属は特許審査の部署になりました。全然平面が出せません」
「時計製造部門に配属となりました。時間が足りなくて悔しいです。もっとやりたい」
「大学ではシステム系の研究をしていました。メーカーに入ったんだなあと実感します」

このヤスリがけの研修ではゴールというものはない。ひとつ完成したら、また次の完成品を目指す。朝8時から夕方4時までひたすら続けるのだ。
「金属の平面を出すことが製造業にとっていかに大切なことか」
「教えられた平面の出し方をどうやったら実践できるのか」
「なぜ上手くできないのか」
「完成したら、次はどうしたらもっと早く、もっと正確にできるのか」

ものづくりはもちろん、仕事をする上で最も大切な「学び、実践し、自分で考え、改善・改良を行う」ことがこの研修には詰まっている。
目標は与えられるものではない、「より良くする」ことを自分がどう実践するかが目標なのだ。


引き継がれる自主精神
自分で掲げた自分の旗

ものづくり塾・精密機器組立て職種の丸山ゆいさん

新入社員研修の後に取材させていただいた、ものづくり塾・精密機器組立て職種の丸山ゆいさんの話が印象的だった。

2009年の第47回技能五輪全国大会・精密機器組立て部門に初めて出場した丸山さん。2010年の技能五輪全国大会では「精密機器組立てに出場する4人が入賞して、私が金メダルを獲ることが目標です」ときっぱり話してくれた。
取材日は新入社員研修のため指導員が不在だったのだが、少し気が抜けましたか?という記者の軽口に
「いえいえ逆です。いていただかないと、教えてもらいたいときに聞けないです。全国大会前の大切な時なので」
と真剣に返してくれた。

やはり、金メダルを獲るという「目標」に真摯に取り組むというシンプルなモチベーションがここにもある。
誰かに命令されたからではなく、自分で掲げた自分の旗なのだ。
それは新入社員研修にあった「目標は与えられるものではない。『より良くする』ことを自分がどう実践するかが目標なのだ」という精神と同じものだ。
ものづくり塾の訓練生たちと会って感じる彼らの自主精神は、すべて同じ源泉から生み出されてきているのだと実感した。

この取材で出会った300人以上の若者たちも、きっと自分の旗を掲げるのだ。最初はおずおずと、そして雄々しく。


社名 セイコーエプソン株式会社
代表 碓井 稔
設立 1942年
事業内容 情報関連機器(プリンター、スキャナー等コンピューター周辺機器及びパソコン、液晶プロジェクター等映像機器)、電子デバイス(ディスプレイ、半導体、水晶デバイス)、精密機器(ウオッチ、眼鏡レンズ、FA)、その他の開発・製造・販売・サービス
従業員 連結 77,936人 単体 13,502人(2010 年3月31日)
資本金 532億400万円
住所 〒392-8502 長野県諏訪市大和3-3-5
TEL 0266-52-3131
URL http://www.epson.jp/