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匠に聞く

栄建具工芸
横田栄一(代表)

ニカリ、と笑う現代の名工

組子細工の実績で4度もの内閣総理大臣賞を受賞し、黄綬褒章を受章。
そして、全国建具組合連合会副会長、全国伝統建具技術保存会会長。

つまり横田さんは組子細工界のカリスマ、なのである。
だが、横田さんを語るときにそれらは根幹たりえない。

会話の端々でニカリと笑う横田さんの本質は、過去から今をつなぐ生粋の職人であることと、未来を見据える事業家でもあることが矛盾なく融合している姿だと思う。
そんな横田さんに独立した青年時代のこと、新しい市場を開拓していったこと、これからの夢を訊いた。


精密な紋様を生み出す組子細工

細く、薄い組手と呼ばれる棒状の木材で繊細な文様を組み上げていく組子細工

日本に来て、組子細工に感嘆する外国人は多いという。

組子とは障子や襖などの建具を構成する細かい部材のこと。
組子細工は「組手」と呼ばれる細くて薄い棒状の木材を釘や接着剤を一切使わずに手作業で組合わせ、精密な紋様を編み出していく伝統技法だ。

横田さんは組子界の第一人者であり、パイオニアである。
なんといっても、まだ誰も組子細工専門で生計を立てようなどとは思ってもいなかった時代(1966年)に25歳で独立し、栄建具工芸を設立。あれよあれよという間に建築業界の中で組子細工のマーケットを立ち上げたのだ。

独立したての頃は外国向けの輸出欄間(らんま。おそらく海外でスクリーンとして使用された)の仕事を請け負い、それが一段落すると、建具仲間たちが「組子細工はあいつに任せられる」と発注してきた。しだいに、「横田さんにぜひあつらえてほしい」という旅館や飲食店からの指名で大きな仕事が入ってくるようになった。

一見、順風満帆である。だが、横田さんにはいつも、「これは長く続かないぞ」という戒めがあった。
目前の仕事に没頭しているだけだと、時代の変化に気づかない。
本来、変化して当然である「時代」というものに、どうやって「技術」を対応させていくか。自分の技術がその時代ではどの分野で求められるのか。
独立してからの横田さんは、それをいつも考えていた。


25歳で独立したときの気持ちが、今でも残っている

総理大臣賞受賞作品。信大の電子工学教授との会話からヒントを得て、アラベスク(アラビア風の装飾模様)調の文様を生み出した

横田さんと話していて面白いのが、「付加価値をつける」という言葉が何度も出てくることだ。
内閣総理大臣賞、黄綬褒章授与といった現代の匠が、まるで企業人のような思考方法も持ち合わせている。
ふつうなら、いかにも「名工でござい」とすまし顔をしていそうなものだが、横田さんは「どうしたら満足できる仕事ができるか。どうしたらお客さんによろこんでもらえるか」をひたすらに考えている。

小諸の家具職人の家に生まれ、16歳で建具の道へ。お礼奉公を含む8年間を最初の親方の元で住み込みで働くなか、仕事に迷いが生まれてきた。
「自分が一生食べていけるために、もう一つ突き破る技術が必要だ」と考えた。それが建具技術の最高峰である組子細工だった。

浦和市の建具工芸研究所にて組子細工を学び、25歳で独立。長野市篠ノ井に作業小屋を借りたはいいが、本当に仕事なんてあるのか不安で仕方がなかった。横田さんいわく、「貯金なし、道具なし、場所なし」の独立だった。

それでも、16歳からの8年間の修行に自負心はあった。
仕事がきたら「早く、安く、うまく」作ることを目指した。
その気持ちが今でも続いている。
「10万円の仕事だったら、10万円以上の気持ちをもってもらえるような仕事をすれば、施主さんも自分もうれしいでしょ」とこの名工は笑いながら言うのだ。


職人であること、事業家であること、恩返しをすること

13番目の弟子は横田さんの記事を読んで、大学を辞めて弟子入りしてきた

25歳から40代までは組子細工一筋で技を磨き、そこから少しずつ一般住宅の仕事も請け負うようになった。
50代になると、松代町の重要文化財・西楽寺の建具修理を期に、社寺仏閣や文化財などの修復を手掛けるようになった。

その時代で求められる分野に自分の技術を集中させる―。

横田さんは一貫してこのやり方だ。
本人は否定するかもしれないが、時代に合った有効な事業にリソースを集中させる姿勢は、やはり事業家としても優れていると思うのだ。

そして、25歳で独立したときにもう一つ自分で決めたことがあった。
「引退までに10人の弟子を育てること」だ。

「職人である自分を何十年も食べさせてくれた“建具”という仕事に本当に感謝しているし、愛着もある。だから、この仕事に恩返しをしなくちゃならない。3年かかってやっと基礎を教えられるとしたら、1人3年で、10人で30年。いまは13番目の弟子がいるよ」
目標達成だよ、と笑って話す横田さんなのである。


直し、作り、伝える

自身も会長を務め、2008年に国の文化審議会から保存団体として認定された「全国伝統建具技術保存会」への尽力も、横田さんにとっては大きな視野での恩返しなのだろう。
会の発足から短期間で認定されたことについて、「修復が必要な社寺や文化財が本当に多いことと、後継者不足への危機感がやっと国にも生れてきたからだろう」と横田さんは語る。

復元を手掛けた善光寺大勧進門扉・三門建具をはじめ、文化財の修復に忙しい日々のなか、横田さんは技能五輪全国大会・建具部門の主査も務める。
人材育成についても一貫しているのだ。

2009年に茨城で開かれた全国大会の競技終了後の総括で、横田さんが選手たちに向けてとても実践的なアドバイスをしている姿が印象的だった。
全国の若き職人たちへも、弟子たちと同じような目線を持っているのだ。
この人はきっと。


社名 栄建具工芸
代表 横田栄一
設立 1966年
事業内容 建具製作、修復
従業員 6名
住所 〒388-8005 長野市篠ノ井横田615
TEL 026-292-1593
FAX 026-293-5938
メールアドレス sakae-tk@cpost.plala.or.jp