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匠に聞く

美篶堂
上島松男・上島真一(代表取締役会長・長野工場 工場長)

さわらの木を目印に辿りつく美篶堂製本所

のどかな山あいの里、伊那・美篶。
田園風景にしっくりと馴染んだその製本所に、大きなさわらの木を目印にようやくたどり着くことができた。
聞こえるのは紙をさばき、重ね、綴じる音。
穏やかでもの静かな空気の中、黙々と製本作業は続けられていた。

美篶堂を創業。製本を生業として50年。複雑かつ壮麗なデザイナーの本を製本し、その本は数々のデザイン賞を受賞。特殊な製本をものともせず、「ただ美しいものを」と製本に取り組み続けている上島松男さん。
長野工場を取り仕切り、製本ワークショップを運営。新しい世代に製本の楽しさを伝える製本歴20年の上島真一さん。
お二人に、製本の美しさ・デザインや、製本にかける想いを伺った。


シンプルに、必要な分だけひとつひとつ仕上げる

指の感覚でつくるきれいなカーブ
先輩匠から譲り受けた「コツ」
年代物の機械は修理は出来るがもう製造はしていない
一枚づつ寒冷紗を貼りつける

早速、製本の工程の一部(本文をつくるまでの工程)を拝見する。
「丸背上製本」 その名の通り、背の部分が丸く仕上がり、開きやすく丈夫。上質なカバーを纏い、長きに耐える手法で、みすずノートやB6/B7丸背上製ノートなどの本は上製本で仕立てられる。

本文と見返しを線固めした「本の中身」ががすでに用意されていた。
まずは、背にすっと水刷毛を走らせ紙をゆるめる。
小口の中心を親指でぐっと押しながら、他の指で上部を手前にずらすように引っ張ると、背にきれいなカーブができた。
そのカーブを「コツ」という道具を用いて、なめらかにする。
順序よく並べられた「本の中身」は、製本専用の機械でバッキングされる。こうすることで開きやすく壊れにくい本になる。
その後に、寒冷紗(かんれいしゃ)というガーゼのような布と背紙を貼り付け、飾りつけに花布という布を貼る。これで本の中身「本文」ができた。
ここに表紙をつけて一冊の本の完成となる。

「手仕事」である。
必要な分をひとつひとつ仕上げていく。その工程は整然と、規則正しく行われる。
昔と違って、今はどこも機械化されている製本業であるが、美篶堂では、敢えて手仕事にこだわってきた。
必要な分を必要なだけ、丁寧にひとつひとつ。美しいものを作ることにこだわり続けている。

※「見返し」 表表紙・裏表紙の内側に貼り付けて、本の中身と表紙をつなぎ合わせている見返し紙のこと。
※「線固め」 本の背の部分を4か所ほど接着剤で固定すること。
※「小口」 本の背を除いた三方の辺
※「バッキング」 丸背を出した本文の背の部分を、バッキング用の機械にはさんで耳を出すこと。


気づいたら製本の道へ

上島松男さんと真一さん

15の歳で製本の道に入ったという松男さん。
「当時は職業の選択なんてなかった、きっかけは製本所のまかない員として姉が働いていたこと」だった。それからそこで、30年。東京にあった関山製本社というその製本所は、特殊な学術書やデザイナーの依頼による装飾された本などを作っていた。
そういった本は重かったりデザイン的で、手作りでないと作れないものが多く、必然的に機械製本ではできないものを多く作っていた。
独立して美篶堂を立ち上げた後、世の中が量産の時代を迎え、製本業界が機械化に走っていった時も、「対抗心があった。とにかく自分は手で」とこだわりを捨てなかった。
東京から伊那に場所を移した今でも、「特殊なものをやっていると田舎にいても東京から仕事が追っかけてきてくれる」そうだ。
それは「美篶堂でしかできない技術」への信頼の証なのだろう。

絵を描くことが好きで、デザイン学校でデザインをひととおり勉強した真一さんは、それを何かに生かせたら、と「なりゆき」で叔父松男さんの製本会社美篶堂に入った。
最初は紙の見本帳を作ったり、ざくざくと断裁機で紙を切るオペレーター的な業務をしていたが、今から7年前、オリジナル商品の開発をはじめ、ワークショップなど、新しい試みを取り入れていく。
デザイン好きな人など、「いいもの」を知っている層から熱い支持を受けている「みすずノート」。その最も難しい丸背の部分は、真一さんがひとつひとつ仕上げている。

製本技術を得るには何年かかるのですか?という質問に、「製本は、どれくらいという年数ではなくて経験の質の方が大きいです」と真一さん。
実際に経験を積まないとならないので、そうなると要するにどんな仕事を経験としてやるかということになるのだとか。
どんな形、紙質、スタイルにも対応できて初めて製本技術をマスターしたといえるのだ。


デザイナーの想いを形にする

丸背上製本でこのサイズになると機械では仕上げられない
複雑な製本技術がつまった美しい一冊

嬉しそうに、あれがあった、これもおもしろいよ、と本棚から様々な本を取り出して見せてくれる松男さん。どれもこれもみたことのない素敵なものばかり。
そのうちの一冊について、
「一枚一枚紙が違いますでしょ?こういう紙を一枚一枚いれるために普通の本ではしない、折り丁合いでなくペラ丁合いなるんです。
銀行のメモみたいに作るつくりで一枚一枚になってもめくれるように作った究極のつくりだよ」
尽きることない製本に対する探求心。製本が大好きなんだ!と感じるひとこまである。

デザイナーの想いを具現化することができる。
こういうものをつくりたいとデザイナーは漠然と机上の計算としてやっている。でも形にするのには何をしていいかわからない。
そういうことにアドバイスができる。
「あまりにも突拍子がないからできますか?って言われて、できますよって作ると、「こんなのが作りたかったんです」といわれる。その時が一番うれしい」

規格外の仕事が多いという。
重い、大きいか小さいか、など特殊なものがメインである。 どんな紙でも、どんな形でも応えるために頭を使うこと。できないと言わないこと。そのスタイルを貫いてきたことが、今日まで続くデザイナーとの親交に繋がっている。


繋いでいくこと

東京からスタートしたワークショップは、今では関東近県をはじめ各地で行われており、難しいと思われがちな「製本」を楽しく身近でおしゃれなものに変えた。
(1月中旬には、長野県伊那市 道の駅「南アルプスむら」内レストラン『野のもの』での製本ワークショップを開催予定)
「自分たちの技術を生かせることなら、どんなことでも挑戦したい。教えてくれと言われたらどこへでも行きます」
「なんでもかんでもいわゆる量産とか大量消費。ひたすら便利で、効率のいいことを追求するような世代に生まれた。だからこそ、つなげていきたい部分ではあります」と真一さんは言う。

来年から、一人若いスタッフが入社する。
弟子を育てること。すでに失われつつある、かけがえのない製本技術を遺していくこと。そのためにできることを-。
美篶堂の挑戦は続いていく。


社名 有限会社 美篶堂
代表取締役 上島松男
設立 1983年
事業内容 製本業
従業員 10名(平成21年現在)
資本金 300万円
住所 〒396-0111 長野県伊那市美篶6768-2
TEL 0265-76-7772
FAX 0265-76-7733
URL http://www.misuzudo-b.com/
その他 美篶堂ショップ・工房・ギャラリー
101-0021 東京都千代田区外神田2-1-2 東進ビル本館1階
TEL:03-3258-8181 FAX:03-3258-8181