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匠に聞く

株式会社楽月園
荻原博行

庭造りに生きる信州の名工

2009年11月に信州の名工として卓越技能者知事表彰を受け、名実ともに業界を牽引する代表的存在の庭師・荻原博行さん。自身が営む「楽月園」として依頼を受けた庭造りはもちろん、後進の指導や業界全体を盛り上げるための活動もこなす多忙な日々を送る。

19歳から造園業に関わり45年が経過した今も第一線を走り続けるそのパワーの源とは一体何だろうか。


運命に導かれて造園の世界へ

日焼けした素肌とゴツゴツとした手。荻原さんが現場を大事にしていることがわかる

日本造園組合連合会で常務理事を務める荻原さんは際立つ実績と行動力で業界内でも名の知られた有名人だが、若い頃は家業を継ぐことは一切考えなかったというから驚きである。しかし高校生の時に先代である父親が突如難病を患い思うように仕事ができなくなった。職人は抱えたまま、さらに顧客からの依頼は変わらずやってくる…画家を夢見ていた青年は「やるしかない」と覚悟を決めたという。

23歳で父親が他界するまでは可能な限り間近で仕事を見て学ぶことに集中した。その後、独自のスタイルを確立すべく必死に仕事をこなした。やがて経済が上向き時代が平成に変わる頃、激しく移り変わる時代の荒波にのまれるかのように造園業界にも変化が訪れた。
「造園業も物売りみたいになった。どこかで大量に造ったものを買ってそれを配置するだけ」。そんな画一的で日本らしさの消え去った庭造りに危機感を覚えた荻原さんはこの時ひとつの使命を自身に課した。


技術を伝え、もっと発展させたい

ぼんやりとしたイメージから徐々に色や形を鮮明に描き出し、完成した庭として実現する

業界の未来を担う20〜40代の庭師のほとんどが“物売りの時代”を土台としており、荻原さんが手掛ける竹垣の作り方、庭に運動性と方向性を見出す気勢という考え方に基づいた立体的な庭造りの方法などに触れたことがない。「講習会で『ここまで見せちゃっていいんですか?』って言われる。いいんだよ、企業秘密なんてないから。技術が継承されればそれでいい」と笑う。自身が持ちうる財産は一切包み隠さず伝授するのが荻原流なのだ。

通常業務と後進の指導・育成のほかに技能五輪全国大会での競技委員を務めるなど精力的に幅広く活動し、さらに「今も進化し続けているんだ」とサラリと言ってのける荻原さん。その桁外れのエネルギーは一体どこからやって来るのだろうか。
「すべて独学だから裏付けがない。つまりね、常に自分の考え方ややり方が通用するのだろうかという不安があるから何事にも緊張感を持って臨む。満足することがないからもっと上を、と思えるんだろうね」。慢心することなく原点を見つめ続ける心の強さが荻原さんを前へ前へと進ませている。


物をつくることの神髄を知る職人

荻原さんは臥牛垣(または光悦寺垣、写真上)や臥竜垣(写真下)作りの第一人者としても知られる

「庭師はマジシャンみたいなものだ」
その土地の気候風土に育まれた素材を住人の文化に合ったテイストの庭に活用する。誰も目をくれないようなものでも、ひとたび庭師の手にかかれば生命を吹き込まれたかのようにイキイキと輝き始める。これが職人の仕事であり、庭造りの意義と魅力だという。

物づくりの楽しさと素晴らしさ、それと同時に一筋縄では習得することのできぬ奥深さをもっと多くの若者にも知ってほしいと荻原さんは強く願う。厳しさの中で得られた幸福感こそ物づくりの世界に生きる者だけに与えられる最高のご褒美だ。

より魅力あるわかりやすい内容の講習会を、と工夫を重ねる。また、時代の変化と寄り添うことで新たな日本文化を生み出そうと、「西洋と東洋の技術の融合」をテーマにした日本庭園の確立を目指し依然進化中の荻原さん。きっとこの“職人”はこのまま前進し続けて、いつの間にか自身に課した使命を全うしてしまうのだろう。


庭師とは?

写真は技能五輪茨城大会での造園種目の競技風景

庭師は石組みと呼ばれる石の配置、植栽と呼ばれる植物の植え付けと配置などにより庭をつくる職人。
造園業は庭師を中心に四季折々にその風景を眺めたり、実際に歩いたりして楽しむことのできる魅力ある庭造りを担う。
お客さんの要望(庭の雰囲気や予算)に応えること、そして庭師のオリジナリティや素材の特徴を引き出すセンスも重要である。
また、用いる材料は大きさおよび重さのあるものが多いため体力も要求される。


社名 株式会社 楽月園
代表取締役 荻原 博行
設立 1940年
事業内容 造園業
従業員 5名(平成21年現在)
資本金 1000万円
住所 〒389-0512 長野県東御市滋野乙3415-1
TEL 0268-62-2029
FAX 0268-64-0460
メールアドレス rakugetuen@po5.ueda.ne.jp